助成金を活用した人材開発は、企業の成長戦略として非常に有効です。しかし、申請手続きの複雑さや要件の見落としにより、せっかくのチャンスを逃してしまうケースが後を絶ちません。
本記事では、助成金申請における重要な注意点を徹底解説し、効果的な人材開発を実現するための具体的な方法をご紹介します。
こんな方におすすめ
- 初めて助成金申請を検討している企業担当者
- 過去に申請で失敗した経験がある方
- 人材育成に投資したいが予算に不安がある経営者
- 最新の助成金制度を知りたい人事部門の方
助成金申請前に必ず確認すべき基本事項
助成金申請を成功させるには、事前準備が何より重要です。申請前に必ず確認しておくべき基本事項を押さえましょう。
助成金と補助金の違いを理解する
多くの方が混同しがちですが、助成金と補助金には明確な違いがあります。
| 項目 | 助成金 | 補助金 |
|---|---|---|
| 実施機関 | 厚生労働省(主に雇用関連) | 経済産業省・自治体(主に事業関連) |
| 採択方式 | 要件を満たせば原則受給可能 | 審査あり・予算上限あり |
| 申請時期 | 通年または長期間 | 公募期間が限定的 |
| 返済義務 | なし | なし |
POINT
人材開発に特化するなら、人材開発支援助成金やキャリアアップ助成金など、厚生労働省所管の助成金がメインターゲットになります。
自社の助成金受給資格を確認
助成金を受給するには、企業が一定の要件を満たしている必要があります。以下の基本要件は必ずチェックしましょう。
- 雇用保険適用事業所であること
- 労働関係法令に違反していないこと
- 過去に助成金の不正受給がないこと
- 労働保険料を滞納していないこと
- 就業規則や出勤簿など必要書類を整備していること
【重要】助成金申請で陥りがちな7つの失敗と注意点
ここからは、実際の申請現場で多く見られる失敗事例をもとに、絶対に押さえておくべき7つの注意点をご紹介します。
注意点①:事前申請を怠る
⚠️ よくある失敗
研修を実施してから助成金の存在に気づき、「事後申請できますか?」と問い合わせるケース
助成金の多くは「計画届」の事前提出が必須です。研修や訓練を実施する前に、必ず計画を提出し、承認を得る必要があります。
対策
- 年度初めに人材開発計画を立案
- 実施の1〜2ヶ月前に計画届を提出
- スケジュール管理ツールで申請期限をアラート設定
注意点②:必要書類の不備
申請書類の不備は、審査遅延や不承認の最大の原因です。特に以下の書類で不備が多く見られます。
- 出勤簿・賃金台帳:訓練時間との整合性確認のため必須
- 就業規則:労働基準監督署の受理印があるものが必要
- 研修カリキュラム:時間数、内容、講師の記載が不十分
- 経費証明書類:領収書の宛名・日付・但し書きが不明瞭
チェックリストを活用
申請前に社労士や専門家にダブルチェックしてもらうことで、書類不備による手戻りを防げます。
注意点③:対象外の経費を計上する
助成金には「対象となる経費」と「対象外の経費」が明確に定められています。誤って対象外の経費を計上すると、申請全体が却下されるリスクがあります。
✓ 対象となる経費例
- 外部講師への謝金
- 教材費・テキスト代
- 会場使用料
- 訓練受講者の賃金
✗ 対象外の経費例
- 懇親会費用
- 受講者の交通費・宿泊費(原則)
- 事務用品費
- 自社の正社員が講師の人件費
注意点④:訓練時間の記録が不十分
助成金の支給額は訓練時間数に基づいて算定されるため、正確な時間管理と記録が極めて重要です。
記録すべき項目
- 訓練日時(開始・終了時刻)
- 実施場所
- 訓練内容の詳細
- 講師名
- 受講者の出席状況(署名または押印)
特にOff-JT(座学研修)とOJT(実務訓練)を併用する場合は、それぞれの時間を明確に区分して記録する必要があります。
注意点⑤:就業規則や労働条件の整備不足
助成金申請時には、企業の労務管理体制が厳しくチェックされます。以下の整備が不十分だと申請できません。
- 就業規則の届出:常時10名以上の従業員がいる場合は必須
- 賃金規程:給与体系が明確に定められていること
- キャリアアップ計画:非正規社員の処遇改善計画(該当する場合)
社労士への相談がおすすめ
就業規則の不備は指摘されやすいポイントです。申請前に社会保険労務士のチェックを受けると安心です。
注意点⑥:実施後の報告を怠る
助成金は「もらったら終わり」ではありません。訓練実施後の支給申請と報告が必須です。
⚠️ 期限厳守
訓練終了後、原則として2ヶ月以内に支給申請を行う必要があります。期限を過ぎると受給できなくなります。
支給申請に必要な書類:
- 支給申請書
- 訓練実施状況報告書
- 出勤簿・賃金台帳のコピー
- 経費の領収書等証拠書類
- 訓練受講者の署名簿
注意点⑦:不正受給のリスク
近年、助成金の不正受給に対する監視が強化されています。意図的でなくても、不正と判断される可能性があります。
不正と見なされるケース
- 訓練を実施していないのに実施したと虚偽申請
- 実際とは異なる書類を作成・提出
- 架空の経費を計上
- 訓練時間を水増し
ペナルティ:不正受給と判断された場合、受給額の返還に加え、最大3年間助成金の申請ができなくなります。悪質な場合は刑事告発される可能性もあります。
主要な人材開発助成金の種類と選び方
自社に最適な助成金を選ぶことで、効率的に人材育成を進められます。
人材開発支援助成金(旧・人材開発助成金)
企業が従業員に対して職務に関連した専門的な知識・技能を習得させるための訓練を実施する場合に受給できる助成金です。
| コース名 | 対象となる訓練 | 助成額の目安 |
|---|---|---|
| 特定訓練コース | 若年労働者への訓練、労働生産性向上訓練など | 経費助成45〜60% 賃金助成760円/時間 |
| 一般訓練コース | 職務に関連する訓練全般 | 経費助成30〜45% 賃金助成380円/時間 |
| 教育訓練休暇等付与コース | 教育訓練休暇制度の導入・適用 | 30万円(制度導入時) |
キャリアアップ助成金
非正規雇用労働者(有期契約社員、パート・アルバイトなど)のキャリアアップを促進するための助成金です。
- 正社員化コース:有期契約社員を正社員に転換した場合(1人あたり最大80万円)
- 賃金規定等改定コース:非正規労働者の基本給を一定以上増額した場合
- 賃金規定等共通化コース:正社員と非正規労働者の賃金規定を共通化した場合
選び方のポイント
正社員の育成なら「人材開発支援助成金」、非正規社員の処遇改善・正社員化なら「キャリアアップ助成金」が基本です。複数の助成金を組み合わせることも可能です(重複申請不可の経費に注意)。
助成金申請を成功させる5つのステップ
ここでは、申請から受給までの具体的な流れを5つのステップで解説します。
STEP1:計画策定(実施の1〜2ヶ月前)
- 自社の人材育成ニーズを明確化
- 実施する訓練内容・対象者・期間を決定
- 必要経費の見積もり取得
- 訓練カリキュラムの作成
STEP2:計画届の提出(訓練開始の1ヶ月前まで)
- 管轄の労働局へ「訓練計画届」を提出
- 必要書類を添付(就業規則、カリキュラム、見積書など)
- 審査期間:約2週間〜1ヶ月
⚠️ 注意
計画届の承認前に訓練を開始すると、助成金の対象外になります。必ず承認を待ってから実施してください。
STEP3:訓練の実施
- 計画通りに訓練を実施
- 訓練日報・出席簿を毎回記録
- 領収書・請求書などの証拠書類を保管
- 写真撮影(訓練実施の証拠として)
STEP4:支給申請(訓練終了後2ヶ月以内)
- 支給申請書の作成・提出
- 訓練実施報告書の添付
- 経費証明書類(領収書等)の提出
- 出勤簿・賃金台帳のコピー提出
STEP5:助成金の受給(申請後2〜3ヶ月)
- 労働局による審査(書類確認、場合によっては実地調査)
- 支給決定通知の受領
- 指定口座への振込
助成金活用の成功事例
実際に助成金を活用して人材開発に成功した企業の事例をご紹介します。
事例①:中小製造業A社のDX人材育成
企業概要:従業員30名の金属加工業
活用助成金:人材開発支援助成金(特定訓練コース)
実施内容:全社員向けDX基礎研修(40時間)+ 管理職向けデータ分析研修(20時間)
成果
- 助成金受給額:約120万円
- 研修実施後、業務効率が15%向上
- ペーパーレス化により年間コスト50万円削減
成功のポイント:事前に社労士に相談し、計画段階から助成金を見据えた研修設計を行った。
事例②:サービス業B社のパート社員正社員化
企業概要:従業員50名の飲食チェーン
活用助成金:キャリアアップ助成金(正社員化コース)
実施内容:優秀なパート社員5名を正社員に転換
成果
- 助成金受給額:約400万円(1人あたり80万円×5名)
- 離職率が20%→5%に改善
- サービス品質向上により顧客満足度が向上
成功のポイント:転換前に6ヶ月間の有期契約期間を設け、助成金要件を満たす形で計画的に進めた。
よくある質問(FAQ)
Q1. 助成金の申請は自分でできますか?それとも専門家に依頼すべきですか?
A. 比較的シンプルな訓練計画であれば自社で申請可能です。ただし、初めての申請や複雑なケースでは、社会保険労務士に依頼することを強くおすすめします。専門家の費用(成功報酬で助成金額の10〜20%程度)はかかりますが、申請ミスによる不承認リスクを大幅に減らせます。
Q2. 助成金と補助金は併用できますか?
A. 基本的には可能ですが、同一の経費に対して重複して受給することはできません。例えば、ある研修費用を人材開発支援助成金で申請した場合、その同じ費用を別の補助金で申請することはNGです。ただし、異なる経費項目であれば併用可能です。
Q3. オンライン研修でも助成金の対象になりますか?
A. はい、対象になります。ただし、以下の要件を満たす必要があります:
- 受講管理が適切に行われていること(ログイン記録など)
- 訓練時間が明確に記録できること
- 理解度テストなどで学習効果を確認していること
Q4. 訓練期間中に退職者が出た場合、助成金はどうなりますか?
A. 訓練期間中に受講者が退職した場合でも、その受講者が実際に受けた訓練分については助成金の対象となります。ただし、計画届で申請した受講者数より大幅に減少した場合は、事前に変更届を提出する必要があります。
Q5. 訓練実施後、すぐに助成金は受け取れますか?
A. いいえ、訓練終了後に支給申請を行い、労働局の審査を経て振込まれるため、通常2〜3ヶ月程度かかります。そのため、訓練費用は一旦企業が立て替える必要があります。資金繰りには注意しましょう。
助成金申請をサポートする専門家の選び方
助成金申請を成功させるには、信頼できる専門家のサポートが有効です。選ぶ際のポイントをご紹介します。
社会保険労務士(社労士)に依頼するメリット
- 助成金制度の最新情報に精通している
- 申請書類の作成・提出を代行してくれる
- 労務管理全般のアドバイスも受けられる
- 審査時の問い合わせ対応もサポート
良い社労士を選ぶポイント
- 助成金申請の実績:過去の成功実績件数を確認
- 報酬体系の明確さ:着手金と成功報酬の内訳が明確か
- コミュニケーションの質:質問に対して丁寧に回答してくれるか
- 対応スピード:期限管理がしっかりしているか
- アフターフォロー:受給後の相談にも乗ってくれるか
費用の目安
社労士への報酬は、着手金3〜5万円 + 成功報酬として助成金額の10〜20%が一般的です。複数の社労士に相見積もりを取ることをおすすめします。
2026年の助成金制度改正ポイント
助成金制度は毎年見直しが行われます。2026年度の主な改正ポイントを押さえておきましょう。
デジタル人材育成の強化
DX推進に関連する訓練に対する助成率が引き上げられる見込みです。特に以下の分野が重点支援対象となります:
- データ分析・AI活用
- クラウド技術
- サイバーセキュリティ
- デジタルマーケティング
リスキリング支援の拡充
成長分野への労働移動を促進するため、異業種・異職種への転換を伴う訓練に対する助成が手厚くなります。特に中高年層の学び直しが支援の対象です。
オンライン訓練の要件緩和
コロナ禍以降、オンライン研修が一般化したことを受け、オンライン訓練の実施要件が一部緩和される予定です。ただし、受講管理の厳格化も同時に進められます。
最新情報の確認を
制度改正の詳細は厚生労働省の公式サイトで最新情報を確認してください。申請前には必ず最新の要綱を確認しましょう。
まとめ:助成金を活用して持続可能な人材開発を
助成金は、企業が人材育成に投資する際の強力な支援制度です。しかし、その活用には注意すべきポイントが多く、適切な準備と手続きが不可欠です。
本記事の重要ポイントまとめ
- 事前申請を忘れずに:訓練実施前に必ず計画届を提出
- 書類準備を万全に:出勤簿、賃金台帳、就業規則など、必要書類を事前に整備
- 対象経費を正確に把握:対象外の経費を誤って計上しない
- 訓練時間を正確に記録:日報・出席簿を毎回きちんと記録
- 期限を厳守:訓練終了後2ヶ月以内の支給申請を忘れない
- 不正受給に注意:正確な申請を心がけ、虚偽記載は絶対にしない
- 専門家の活用を検討:初めての申請や複雑なケースは社労士に相談
助成金を活用した人材開発は、単なるコスト削減ではなく、企業の競争力強化と従業員のキャリア発展を両立させる戦略的投資です。本記事でご紹介した注意点を押さえ、計画的に取り組むことで、助成金を最大限に活用し、持続可能な人材育成体制を構築できるでしょう。
まずは自社の現状を把握し、どの助成金が適しているかを検討するところから始めてみてください。必要に応じて社会保険労務士などの専門家に相談しながら、確実に申請を進めていきましょう。
次のステップ
- 厚生労働省のWebサイトで最新の助成金情報をチェック
- 自社の人材開発ニーズを洗い出す
- 社会保険労務士に相談予約を入れる
- 年間の研修計画を立案する
助成金を味方につけて、企業と従業員がともに成長できる環境を作っていきましょう!